Film Scoring

第3章 映画における音楽要素との関わり

音楽の要素とは、メロディー、ハーモニー、リズム、と言われますが
各々が映画の中でどの様にかかわっているのか、を考察してみたいと思います。

メロディー

 映画音楽に限らず、まず初めにメロディーが一番重要だと思う。
映画全体を表すメインテーマには様々な様式が用いられるが、映画そのものの性格を表現したメロディーと言う事になるでしょう。 それと共に、登場人物に焦点を当てたテーマや特定の場所や状況にあてたテーマなども、はっきりとした個性を与える役割を果たします。
また、短いモチーフや特別な音色を、ある特定の状況に付けるのは、後の展開への伏線として使われる場合が多く、観客の見方をある一定の方向に導く役割も果たします。
マーチの得意なジョン・ウィリアムスは「ET」「レイダース」「スターウォーズ」「ジュラシック・パーク」と云った作品で各々誰でもが思い起こせるメインテーマを提供している。
人物テーマとしては「スターウォーズ」で登場するダースベイダーのテーマなど単体のメロディーだけを聴いても、すぐに映像と結びつくシンプルなラインが用意されている。

或いは、ヨーロッパ映画の場合に多く見られる手法は、同じメロディーを何度も何度も繰り返し使う事によって、映画そのものとテーマ・メロディーとが深く繋がり、メロディーを聴けば映画を、映画を思い出せばメロディーが、と言う風に刷り込まれてしまう効果がある。
一方、イタリアの巨匠ニノ・ロータにおける「ゴッド・ファザー」のラヴ・テーマなど典型的な例の様に見えて、あのテーマは実は映画全体ではそんなに登場していないのだが、メロディーの秀逸さで完全に映画を代表していると言って良いだろう。

繰り返しの効果が顕著な作品は「イル・ポスティーノ」などが典型で、アレンジも殆ど変えずにバンドネオンの音色で何度も聞こえてくるテーマが実に心地よく効果的だ。
多少マニアックになるがギリシャのテオ・アンゲロウプス監督と作曲家エレニ・カラインドロウの創り出す世界は、同じメロディーを繰り返す事によって、より深い世界に導かれてゆく心地良さが印象的だ。 通常ハリウッド・スタイルでは4/4拍子の曲がある場面では3/4拍子で演奏されたり、スローテンポ、アップテンポ、或いはソロ楽器を替えたり、など同じメロディーでも様々な表現方法を駆使して各々のシーンに合ったアレンジをするのだが、こういったヨーロッパ的な手法では、殆ど同じ音型を繰り返すのが特徴でもある。

古くは「ブーベの恋人」「太陽がいっぱい」「シェルブールの雨傘」など歌詞が付けられてスタンダードとなったテーマ曲も多数あるのは、やはりヨーロッパ映画が多い。
これはメロディーそのものが、口ずさめるシンプルなラインで作られている証でもあり、故に誰でもが覚えやすいと言う事だろう。 私個人の考え方で言えば、テーマとなる音楽はシンプルなメロディーラインで、映画と音楽が密接に繋がりたいと思う所は、ヨーロッパ映画音楽指向だと言えるのかも知れない。 実際、近年のハリウッド映画の音楽は場を盛り上げるには良いが、後に残るメロディーが感じられない気がするのは私だけか?

いずれにせよ、メロディーは映画全体、或いは特定の人物像や状況、場所などの色合いを方向付け、その性格を潜在的に観客に染みこませて行く最大の要素だと言って良いだろう。
「ロッキー」のテーマで力を漲らせ、「イル・ポスティーノ」のテーマで詩情を巡らせ.「愛の選択」ではケニー・G のサックスに涙し、「風と共に去りぬ」のタラのテーマでは大きな時代の流れを背負い・・・映画が常にメロディーと共にあるのは素敵な事だ。

ハーモニー

勿論、和音の事ですね。 音楽的な解釈は出来なくても、ラヴストーリーとホラー映画とでは明らかに和音の構成が違うと言う事に気づいている方も多いのでは。
基本形はいわゆるドミソの和音、メジャー(長音階)ですね。 ミが半音下がるとマイナー(短音階)というのは、子供の頃の音楽の時間を思い出して頂きたい。 単純にメジャー曲は明るく、マイナー曲は暗いと言うイメージがある様ですが、和音自体もっともっと奥が深いのです。 実際に映画の中で聞こえてくる音楽には、このドミソ以外にも様々な音が重なり合って、その映画や楽曲の性格を形作っています。 美しいメロディーに流れる様なハーモニーが付けられているばかりではありません。 おどろおどろしいメロディーに聞いただけでも不吉な予感がするハーモニーでも、その映画にとっては重要な要素なのです。
映画の種類によっては、あるいは、あるシーンによってはメロディーそのものが存在せず、ハーモニーの流れだけで表す事も良くあります。 この場合ハーモニーの一番上の音、あるいは一番突出した音の流れをメロディーだと解釈する事も出来なくはないのですが、ここでは解りやすくする為にメロディーとは言わない事にしておきます。

さて、ハーモニーは音の積み重ねではありますが、演奏する楽器によっても様々な表情、表現を創り出します。 一番オーソドックスなのはストリングス(ヴァイオリンをはじめとする弦楽器)だとは思いますが、金管楽器(トランペットやトロンボーンなど)や木管楽器(フルート、オーボエ、クラリネットなど)では各々違った趣があり、作曲家は一つのハーモニーに対して、どの楽器を使うか、あるいは組み合わせるかによって、そのシーンに対する効果を、音符だけではなく響きとして意図的に表現しています。 あるいは、ある特殊なシーンに必ずそのハーモニーが付いている、と云う様な事もしばしばで、メロディーの項で述べた伏線や性格を表す役目も担っています。 観客として気づかなくても、実際にはその罠にはまっていると思って下さい。 金管楽器では強さや低音の厚み、木管楽器には茫洋としたふくよかな優しさ、シンセではその音色による独特の持ち味など、それだけではありませんが、音の積み重ねと音色によって様々な表現を可能にします。 勿論、その他にもピアノやギターなど、和音の出る楽器はそれだけでもハーモニーを奏でる事が出来るので、無限とも思われる組み合わせの中から、このシーンにはこれ!と言うものが選ばれて行きます。
 作曲家によっては、独自のハーモニーを持ち、それだけでその作曲家らしさを感じさせてくれる方もいますね。

映画の中では、モンタージュと良く云われるシーン(台詞もなく、ある時間の経過や次のシーンまでに辿った事柄などを短い時間で表現する為に映像を編集してある)ではハーモニーの流れで押して行くのか、メロディーを立てて行くのかは、作曲家の悩む所でもある。
そして、同じメロディーなのに違ったハーモニーが付けられている場合も、たまたまではなく、計算立てて意図されたものだと云う事を言っておきましょう。

リズム

さあ、リズムの話だ。 これも幾つかの譜面やオーディオ・ファイルの音を参照して頂いた方が解りやすいのだが、著作権の問題上文面だけで解説しますので、興味を持った方は実際にビデオやDVD,サントラなどを参考にして下さい。
 映画の中のリズムと言ってまず頭に描くのは、もしかすると「ターミネーター」かも知れませんね。 あの「ダダッ・ダッダ・ダン」とか云う例のヤツです。 あのフレーズは確かにメロディーよりも普及してしまったかも知れない。 
 しかし、ここで云うリズムとは、ああいった打楽器の刻むものだけではなく、音楽そのものが持つリズムと言う意味です。 例えばボサノヴァやタンゴ、ワルツと云えば解りやすいと思いますが(一般に云うロックのリズムと云うのは単にビートが利いたと云う意味合いでしか解釈出来ない程多様化している)、メロディーやハーモニーの流れには殆どの場合リズムを伴っています。 (敢えて殆どの場合と言ったのには訳があり、リズムが存在しないと思われる音楽もあるのだが、このページは音楽講座ではないので、それには言及しません)

 基本的には4/4拍子や3/4拍子などと言った所が、皆さんの馴染んできたリズムの元となっていると思いますが、スタンダードの「テイク・ファイブ」なんて云う曲は、その名の通り5/4拍子で出来ています。 かつて、グレート・ジャーニーの関野吉晴氏が北米にさしかかった所で現地の方々に歌を披露してもらい、お返しに関野氏が歌ったのが「うーみーはーひろいーな・おおきーいーなー」誰でも知ってますね。 この曲は3/4拍子、つまり1,2,3・1,2,3と云う事ですが、関野氏はこの歌を歌うにあたり、タンバリンの様な現地の太鼓を拝借しドン・チャン・ドン・チャンと叩きながら歌いきったのでした。 さて、もうお判りですね、3/4拍子の曲に2/2あるいは4/4拍子のリズム。 打ち合わせで渡されたVTRを見ながら、何とも不思議な感覚に陥った。 ドン・チャン・チャンとやれば紛れもなく3/4拍子で合致するのだが、これはこれで面白いではないか。 音楽家ではなかなか出来ない芸当だ。 関野さん、見ていたらゴメン。 でもオンエアーされたから良いか・・・。
 実は世界にはこんな例は一杯あって、勿論もっと複雑なのだが、その土地特有の民族音楽では平気で混在している。

 話はそれたが、「ターミネーター」に限らず、リズムはそのシーンに弾みを付けたり、反対に内へ内へと深く浸透させたり、緊迫感、圧迫感、開放感など様々な表現に欠かせない要素なのだ。 ヒップ・ポップだけにリズムがある訳じゃないのだ。 息を潜めているシーンでの心臓の鼓動に似たリズム、あるいはそのものズバリの音や窓越しに聞こえてくる盆踊りや夏祭りのリズムに外界の華やいだ雰囲気を感じたり、息詰まるサスペンスでの癇にに触る様な高音域のストリングスのリズム、ゆったりとしたワルツのリズムに乗ったオーケストラの大ユニゾンでは気持ちも大らかになり、凪の大海原を大きな帆船で航海している様な気にさせられる。 そして不気味に繰り返されるくぐもった太鼓のリズムに、何か怪しい宗教にでも洗脳される思いを描いた方もいるだろう。 そしてリズムはしばしばハーモニーを伴って現れて来たり、メロディーそのものにリズムが伴っていたり様々だ。 

 しかし、どれもこれも作曲家と監督の意図するもので、観客を映画の中に引きずり込もうとの作戦だと思えば、その中に身を委ねるか、抵抗するかは自由に選べば良い。 むろん、こちらとしては観客に気づかれない内に引きずり込もうと、あらゆる手を使っているのだ。 それ故に、どこにどんな音楽が配置されていたかを自覚して映画を見る人は同業者かひねくれ者か、と言う所だろうが、この、音楽だけが目立っては良い映画音楽とは言えない、しかし映画を観た人に音楽を感じて欲しい、記憶して欲しい、という矛盾を映画音楽作家は常に抱えている。


今回は実際に映像や音楽を持ち出す訳にいかないので、資料も提示せず解説をすること自体、特に難しさを感じつつ進めてきましが如何だったでしょうか。
映画やドラマの音楽に興味を持ち、映画がTV放送されたり、ドラマが再放送されたりした時にはあらためて別の角度から観る、と言うのも楽しいかも知れませんよ。 ちょっと意地悪に「成るほど、こんな所で実はあんな事してたんだ・・・」と云う発見もあるかも知れません。 そして、それを是非楽しんで見て下さい。
それでも、それを忘れてストーリーにはまり込んでしまったら、それはきっと良い映画でしょう。


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